企業にとって、人材確保・定着・育成は大きな課題の一つです。
少子化のため、労働人口が少なくなっていることもあり、優秀な人材の獲得を行うため、今後も企業では注力し続けなければなりません。
まずは、社員の離職率を下げて定着をはかり、積極的に新規採用をおこなうこと。
それには、継続して働きたいと思う魅力的な職場環境の整備が必須条件です。
そのための取り組みの一つとして、人事評価制度を見直し、360度評価を取り入れる企業が増えてきました。
なぜ今、360度評価が注目されているのでしょうか。
そして、360度評価を導入するステップをここではご紹介します。
360度評価とは?
360度評価とは、評価対象者を複数の関係者が評価することです。
上司・同僚・部下など、社内からの評価だけでなく、自己評価も加えます。場合によっては取引先の企業にも協力してもらい、より多角的な方面=360度からの評価をすることを言います。
従来の上司から部下に対する、一方的な評価と異なり、複数の評価から客観的な評価が得られやすくなります。
今、360度評価に注目が集まる背景
人材育成やモチベーションの向上、離職率低下への期待
人材不足の影響で、企業では人材の奪い合いになっています。
自社の社員を育成し、限られた労力から効果的な成果を生み出す必要から、企業では人材の育成が急務となっています。
多方向からの評価は客観的で、評価対象者も納得しやすく、自己の改善点に気づきやすくなることから成長が促進され業務に対するモチベーションが向上するという効果が期待できます。
働き方改革やテレワークの推進
政府が掲げている長時間労働の是正やダイバーシティの推進を盛り込んだ働き方改革、またコロナウィルス感染対策として推進したテレワークで、労働スタイルの多様化が加速しています。
評価対象者の業務内容や勤務態度を、直属の上司一人で全てを把握することが困難な状況が増えています。360度評価ではそういった面を補うことができます。
一方向からの評価ではなく、一緒に仕事を進める同僚や部下など、業務上関係のある周囲のメンバーからの評価ということで、より現実的な評価が可能になると言えるでしょう。
360度評価のメリット
360度評価はメリットが多くあります。
どのようなメリットがあるかを紹介します。
公正な評価を行うことができる
人事評価は公正でなくてはなりませんが、上司から部下を評価する一方向からの評価では、上司側の主観的な要素が大きく影響してしまったり、評価する人によって評価がばらばらになったりと、属人的になってしまう懸念があります。評価対象者が上司の評価を気にしすぎて萎縮してしまうと、よいパフォーマンスを発揮できません。また、上司と部下の関係性がこじれてしまうと、組織やチームに悪影響を与え、ひいては離職に繋がってしまうということも起こります。
360度評価では、上司だけではなく、同僚や部下など異なる立場の複数からの評価がなされるので、より客観的で公正な評価が可能になります。
従業員エンゲージメントの向上
一人ひとりの意見が評価に反映されることに肯定感を感じ、帰属意識や当事者意識が高まっていきます。
また、きちんと評価されていると感じられる従業員は、組織に対する満足度が上がり従業員エンゲージメントが高まります。
企業への信頼感から、離職率が低下するとも言われ、モチベーション向上からパフォーマンスの向上の期待もできます。
人材育成へ向けた自己認識能力の向上
360度評価では、自己評価も行います。自己評価と周囲からの評価を比較することができるため、自分で自覚していない長所や短所を把握しやすくなります。自己認識が高まることで、仕事への向き合い方や、上司や同僚、部下との関わり方への振り返りのきっかけとなり、また、今後の課題を自ら見出しやすくなります。自分で課題を見つけるということは、成長を促進させる材料になります。
360度評価の注意点やデメリット
一方でデメリットもあります。
どのようなデメリットがあるかも充分理解し、どのように解消するべきかも検討しましょう。
社員同士の忖度や不正
部署やチーム内で「お互いの評価をよくしよう」といった忖度、また、一人に対し低い評価をつけるといった攻撃を仕掛けるようなことも起こり得るかもしれません。
不正行為が行われると、360度評価の本来の役割が達成されず、かえって人間関係に不協和音が生まれてしまう可能性があります。
信頼関係の基に成り立つ評価が理想ですが、ルールを設けるといった下地作りも必要かも知れません。
評価者への過剰な意識
360度評価では、上司も評価対象となるため、部下の評価を気にしすぎ、厳しく指導することをやめてしまうことがあります。人材育成に影響を及ぼしそうな評価項目は、部下から上司へできなくするなどの対応も場合によっては必要かも知れません。
いずれにせよ、導入前にマネジメント層には、人材育成の目的があることをきちんと理解してもらいましょう。
評価プロセスの管理
複数人からの評価を得ることは、多くの労力がかかります。
フィードバックを多く集めようとすればするほど管理が煩雑になります。
従業員も評価されるだけでなく、評価する側でもあるので、多くの時間が割かれてしまうこと不満が生じるかもしれません。
この問題は、人事評価システムの導入で解消されます。ツールの利用で効率化を図ることも検討しましょう。
360度評価の導入ステップ
より効果的に導入できるよう、やるべきことを確認していきましょう。
導入目的と方針を明確化する
360度評価の導入目的を明確にしましょう。
評価の透明性の期待、従業員の成長への期待など、何を目的にするかを明確にして従業員にきちんと説明をしなければなりません。
360度評価であつまった結果は、昇格や昇給に影響を及ぼすものなのかそうではないのかなど、利用方法などもはっきりとさせておいたほうがよいでしょう。
運用ルールの作成
効果的に運用できるようにルールを設けておきましょう。
前述にあげたデメリットを回避するためのルールはもちろん、評価者や基準などの他、フィードバックはどのような方法で誰が行うのか、評価対象者から誰からの評価なのか公開するのかしないのかなど、目的や企業風土により多角的に検討しながら作成していきましょう。
運用ルールは、運用していくうちに改訂せざるを得ないこともあるかもしれませんが、どのような理由で変更するのかなど、都度従業員に説明を行う必要があります。
評価方法の決定
一般的に利用しやすいExcelなどの汎用ソフトを利用する企業も多くありますが、運用していくうちに管理が複雑になってまうというデメリットもあります。
Googleフォームなどアンケートツールも便利ですが、求めるような機能がない場合もあります。
人事評価システムなどのシステム導入なども視野に入れ、管理の担当者の負担が少なくなるように方法を決定しましょう。
ツールを導入する場合は、ツール導入ありきで考慮するのではなく、自社が行いたいことをできるツールを選ぶことが大切です。
評価項目の決定
どのような項目によって評価を行うかを定めます。
重要な項目になるので、慎重に検討しましょう。
客観的に回答できるような設問文のほうがよいとされています。
社内周知
360度評価の導入目的、ルールなど、従業員への周知や説明会を行います。
導入へ理解が得られるよう、きちんと説明をしましょう。
一部署からの運用やトライアルの開始
一度に導入すると混乱が生じてしまう可能性があります。
先に一部署だけ運用を始め、実際におこった課題を解決しながら全社への導入をしたほうがスムースに運用できるでしょう。
人事評価システムを導入する場合は、トライアル期間があり実際に利用することができるものもあります。
移行への負担を軽減するように進めていきましょう。
まとめ
人事評価に対する従業員の不満の多くは、「自分が正当に評価されていない」「評価が不透明」ということです。
不満は業務効率の向上には繋がらず、離職へ向いてしまいます。
従業員の定着また成長なしでは企業は成長しないでしょう。
深刻化する人材不足。これを解消する選択肢のひとつとして取り入れてみてはいかがでしょうか。