政府は2022年8月に発表された「人的資本可視化指針」により、早ければ2023年3月期の有価証券報告書(有報)から、企業に人的資本情報の開示を義務付ける方針を示しました。
対象は約4000社といわれていますが、対象となっていない企業も背景を理解し、対応をしていかなければ、企業として遅れを取ってしまうでしょう。
ここでは、「人的資本」についてご説明していきます。
人的資本開示の世界的な動向
近年、「人的資本経営」が注目されています。人材を「資本」として考え、その価値を最大限に引き出すことにより、中長期的な企業価値向上に結び付けていくという経営のあり方です。
よって、投資家たちにとって、「人的資本」は「重要な投資情報」とされ始めています。
アメリカでは2020年8月に米国証券取引委員会(SEC)がアメリカの上場企業に対して人的資本の開示を義務化しています。
アメリカだけではなく、世界的に「人的資本は重要な投資情報」とされるようになってきました。
「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に対する企業の取り組みを重視して投資銘柄を選定するESG投資への関心の高まりも関与しています。「人的資本」は企業が取り組む「Social(社会)」に含まれるので、環境問題や労働条件改善に前向きな企業としての評価になります。
人的資本を開示することにより、投資家たちは企業の情報を比較しやすくなるのです。
人的資本の価値を高めるには
日本では、終身雇用制や年功序列という独特の文化があるので、今まで「人材に投資する」ということは重要視されていませんでした。
では、企業の人的資本を高めるにはどのようにしたらよいのでしょうか。
ここでは3つご紹介します。
戦略人事の推進
1つ目は「戦略人事の推進」です。戦略人事とは、経営戦略の実現に資する人事機能を目指す考え方です。経営戦略は、いかに他社との差別化を図り競争優位性を創造していくかという計画です。そのために人材をどのように活用するのかを考えていくことが重要になります。
人材育成の取り組み
2つ目は「人材育成の取り組み」です。社員のスキル向上や資格習得等に積極的に投資することで、人的資本を高めることができます。具体的には研修費や資格取得費の負担など、個人の能力向上のための人材育成の取り組みは人的資本への投資に他なりません。
こうした取り組みは、採用活動にも影響を与え、「より多くを学びたい」という優秀な人材への働きかけにもなります。
HRテクノロジーの導入
3つ目が「HRテクノロジーの活用」です。HRテクノロジーとは、人事分野をサポートするテクノロジーの総称です。採用・育成・労務など各領域において、様々なサービスが存在します。HRテクノロジーサービスを活用することで、
・人事業務の効率化
・実効性の高い人事施策の実行
・定量的な人事分析
ができるようになります。これらによって人的資本をより効率的に高めることが可能です。
まとめ
「人的資本可視化」の対象となっていない企業でも、市場の急速な変化や、少子化の影響による労働人口の減少など、人材獲得競争は激化から、人的資本への取り組みは避けて通れません。
着手することは大変ですが、1つづつできることから進めていく必要があります。
どこから始めてよいかわからない場合は専門家に相談するとよいでしょう。