従業員のエンゲージメントの高め方と離職率の関係

従業員マネジメント

最近の離職に関する傾向

時間とお金をかけて採用し、教育をした社員がわずか数か月で辞めてしまう、期待していたできる社員から辞めてしまう…。
社員の「離職」で悩む経営者や人事の方は多いのではないでしょうか。

2019年度の厚生労働省の調査によると3年以内に就業した大卒者新卒の離職率は、32.0%という結果でした。この数値は30年前から変わっていないともいわれています。
しかし求人倍率が増え、優秀な人材を採用するためには激戦状況となっている昨今、せっかく採用したのにすぐやめられてしまうとなると、次にまたいい人材を探すにも相当の時間と費用が掛かることは、容易に想像できます。

厚生労働省の同年の離職理由調査で最も多かったのは「個人的理由」(「結婚」「出産・育児」「介護・看護」及び「その他の個人的理由」の合計)によるものは 11.5%でした。

2019年度に、「エン転職」が独自に行った調査によると、離職理由の本音で一番高かったのは、「やりがいの欠如」、「給与が低かった」、「企業の将来性に不安を感じた」
ちなみに、20代の1位は「給与」についてとなっています。
それでは給料がよく労働条件がよければ、離職率は下がるもの、と考えられるのでしょうか。おそらく回答は「ノー」です。
もちろん離職理由は人それぞれですが、おそらく人は給与や制度といったハード面だけではなく、人間関係や、自身が正当に評価されているという納得度といったソフト面の両方で、その企業に留まるか否かを天秤にかけるといえます。
そういった背景のもと、ここでは「従業員エンゲージメント」というキーワードを切り口に、離職率を下げる方法についてご説明いたします。

従業員エンゲージメントと離職率の関係性とは

「従業員エンゲージメント」という言葉が昨今の人事業界ではよく耳にするキーワードになりつつあります。従業員エンゲージメント(英語ではEmploy Engagement)とは、1990年にボストン大学心理学教授(当時)のウィリアム・カーン氏によって導入された就業態度の概念で、その後概念から発展し、現在は一つの指標として使用されています。
日本語で説明すると、「従業員の仕事への意欲・やる気」「前向きな仕事への取組み態度の度合い」という言葉が近いかもしれません。

この従業員エンゲージメントが高い企業は、離職率が低く、生産性が高いということが近年のアメリカのコンサル会社の調査結果などからわかってきています。2004年にアメリカのコンサルティング会社CEB社(Corporate Executive Board)が発表したデータによると、エンゲージメントの高い社員を低い社員と比較したところ、高い社員は離職率が87%低いという結果が明らかにされています。

従業員エンゲージメントが高いということは、従業員がその企業で仕事をすることに前向きであることから、顧客満足度も上がり、業績もあがり、社員への給与も上がり、結果的に離職率が下がっていくというプラスのスパイラルになるのです。

従業員エンゲージメントを高めるために有益となる5つの方法

従業員エンゲージメントを高めるための方法は、数多くありますが、ここでは経営層だからこそできる制度の導入などを中心に、5つに絞ってお伝えします。

①従業員の実体を面談・調査で把握する

そもそも現在従業員が何を考えているのか、企業についての不満はあるかなどを把握できているでしょうか。
離職率を下げるためにと、色々と考えて的外れな制度を導入したりする前に、まずは現状の従業員の状況を把握することが何よりも重要です。

把握する方法として、人事面談などを行うという方法があります。さらに、あまりに離職率が高いようでしたら、費用は掛かりますが外部のコンサルティング会社のサーベイを導入することも視野に入れてもいいかもしれません。

いきなり高いお金を払って大規模なコンサルティングを行うのはハードルが高い場合は、主要なメンバーを集めて、外部講師を招いて教育研修を行うのも一つの方法です。そこで話しやすい雰囲気を作り、現状をメンバー間で話し合ってもらうのです。

第三者を利用した方法で実態を把握することは客観的な現在の従業員の状況を把握するためには有益とえます。

②組織目標を社員全体に明確に伝える

社員のエンゲージメントは、自身の目標と、会社の目標が合致すると高まります。何のために働いているのか、という目標がバラバラになると、組織としてもバラバラになります。社員に向けて、組織の目標を明確に伝えているでしょうか。組織の目標といっても、単なる売上の話だけをしていないでしょうか。企業規模を大きくすることだけを目標にしていないでしょうか。

ここでいう「組織目標」というのは、売り上げや規模といったことではなく、ビジョンやバリューといった、企業の存在意義についてです。できる限り簡潔で覚えやすく、組織目標を言語化し、社員に共有しましょう。要所要所の挨拶やホームページ、従業員教育の場など、繰り返しメッセージを発信し、浸透させましょう。

③正当な人事評価制度を作る

現在の人事評価制度が正当であるのか、社員が納得をしているのか把握し、していなければ評価制度を見直しましょう。
「②」で伝えた「組織目標の明確化」に近いですが、何が評価のポイントになるのかを明確にするのです。従業員自身のその企業でやりたいこと、つまりはキャリアへの考えと、評価されるポイントをすり合わせていくことで、従業員エンゲージメントは高まるといえます。

④人材確保について本当に必要な人材を明確にする

そもそも離職する人が多い組織というのは、組織にも問題はありますが、採用の際にミスマッチをしている可能性もあります。例えばトレンドで「こういう人を採用するといい」というような情報に流され、自社の風土に合っていない人を採用してしまっている、という可能性があるかもしれません。

風土に合っていない社員が入社すると、場合によっては悪い影響が出てしまい、さらに周りを離職に巻き込む可能性があります。企業の風土と求められている技術に見合った人材を確保するように、今一度採用方法を見直すことが必要です。
本当に必要な人材の基準と入社後の教育方針を現在の組織の状況を把握し、明確にしましょう。

⑤社内コミュニケーションを活発化させる

上司、部下、同僚など、社内のコミュニケーションが活発でスムーズな企業は従業員エンゲージメントが高いといえます。目指すべき目標が明確で、社内のコミュニケーションが活発であれば、今現在自分が目指している方向に自信がなくなったとしても、周りと相談しながら軌道修正を行ったり、間違っていなかったと確信できたりと、安心して仕事に取り組めます。
さらに辞めたいと思うような出来事があったとしても、周りと共有することで持ち直す、というリテンションにもなります。

社内のコミュニケーションを活発化させるために、社内行事や交流会、社員研修の資金を予算としてつける、という方法があります。
しかし社内の行事や交流会などを実施する前に、経営層レベル、マネジャーレベルが意思疎通をできているか、把握しましょう。企業目標を共有できていない経営層や、自部署のメリットばかりを追求するマネジャーがいませんか。
もしくは経営者自身が、話をしづらい雰囲気を作っているかもしれません。

まとめ

従業員がエンゲージメントを高めるためには、経営者層自身が意識することから始まります。まずは経営者層同士、マネジメント層同士の意志疎通をスムーズに行うことを意識づけましょう。

従業員エンゲージメントを高め、離職率を下げるということは一朝一夕でできることではありません。
しかし企業として継続しさらなる発展を目指すためにも、貴重な人材が外部へと離れてしまわないように、従業員エンゲージメントの向上に取り組んでみてください。