「業務の効率化」や「働き方改善」に向けてデジタル化が進む中、企業ではAIの導入にも積極的です。「経理・財務」や「品質管理」、「企画・マーケティング」のように数字やデータを利用する職種の導入が目立ちますが、人事部門でもAIを利用した人事関連システムが注目されています。
AIによる人事評価で期待すること
公平性が高まる
人が人を評価する場合、無意識に主観が入り公平ではない評価になってしまうことがあります。また、客観的になるよう注意を重ねて出した評価も評価が低い被評価者から見ると、懐疑的になってしまうことがあります。
AIによる評価では、人間の個人的な感情や思い込みによる偏りがなくなり、客観的で公正な評価が可能になります。
評価者と被評価者間での人間関係への影響も軽減させることができます。
人事評価業務の効率化
評価項目を詳細にするほど、精度が高く評価が可能になりますが、データ入力や集計を人が行うと時間がかかり、また分析もしにくくなってきます。AIであれば、蓄積された多くのデータやその個人の過去のデータを活用し正確で速い評価を行うことが可能になります。
人材の発掘
人が行う人事評価では埋もれてしまっていた人材を、AIでは発掘が可能になるかもしれません。埋もれていた人材が活躍できる仕事や環境を整えることで企業にとってもよい影響をもたらすでしょう。
AIによる人事評価のデメリット
ブラックボックス化の問題
AIは機会学習により分析や可視化を行いますが、AIの出した評価が何に基づいているかはわかりにくく、評価がブラックボックス化しがちであるという課題があります。人事評価が賃金や報酬に影響を与える企業が多いので、納得のいく評価であれば問題はありませんが、納得のいかない評価の場合どうしてそのような評価になったのががわからないと被評価者は企業に対して不満を持つでしょう。
2020年4月、日本IBMの労働組合はAIによる人事評価に関する情報の開示を求め、東京都労働委員会に救済を申し立ています。
法律への抵触可能性
人事評価は企業に裁量権がありますが、人事権の濫用と認められる場合には違法であると判断されることがあります。人事評価にAIを活用すること自体は人事権の範囲内ですが、AIが誤った分析していた場合、人事権の濫用になりこともありえます。長期の間誤った分析を行い、それがブラックボックス化しているものだとしたら企業にとって大きな損害になるでしょう。
評価者が評価をAI任せにしてしまう
評価を行うことが大変な作業であるがゆえ、AIが出した評価を評価者がよく吟味をせずに最終的な評価として決定をしてしまうなど、すべてをAI任せにしてしまうということもあります。あくまで最終的な判断は、責任を持って評価者が行わなければ評価後のフィードバックや具体的なアドバイスもできなくなるでしょう。
システムに欠陥がないとはいえない
2018年、米国のAmazon社はAIを活用した人材採用システムが女性を差別するという機会学習を行っていたため、AI採用システムの運用を取りやめました。様々な検証を行い、判明したプログラムの修正は行ったものの、「他の差別を生んでしまう仕組みがないという保証がない」という理由からです。
今後のAIの人事評価導入の傾向は?
日本は欧米に比べてAI化が遅れていると言われていますが、2020年に防衛省がAIを活用した人事評価や人事異動に関するシステムを開発し導入するという報道がされました。AIはあくまでも、人のサポートという位置づけで2022年の5月には、AI・データ分析官を採用すると発表しています。AI・データ分析官の採用について
これから労働人口の減少により、デジタル化やAIの導入も進んでいくでしょう。しかし、AIやシステムに任せていいところと、人の目を通すべきところをきちんとわけた運用をすることが必要だと言えます。
まとめ
AIの人事評価システムにはまだ課題が多くありますが、技術は確実に進歩していくでしょう。
新しい技術やシステムは大手企業だけのものだと考える中小企業は多くありますが、人材不足は大企業・中小企業に関係なく共通の課題です。
AI導入はまだ先のだとしても、効率化していい部分については、積極的にデジタル活用していかなければ、ビジネス競争に勝てなくなってしまいます。
もし、今、評価業務も紙やExcelで行い、データの書式や保存場所が一元化されていないというのであれば、AI導入の前に、まずはデータの整備から検討してみてもよいのではないでしょうか。