AIやDX(デジタルトランスフォーメーション)が進展する中で、企業を取り巻く環境は急速に変化しています。
新しい技術の登場により、これまでの仕事のやり方が通用しなくなるケースも増え、「学び直し=リスキリング」が企業経営の重要テーマとなっています。
近年では大企業だけでなく、中小企業においても「社員のスキルアップ」を経営課題として掲げる動きが広がっており、国もそれを後押しする形で助成制度を充実させています。
リスキリングとは? ― “スキルの再構築”が競争力を生む
「リスキリング(Reskilling)」とは、直訳すると「再教育」「学び直し」。
従業員がこれまでの業務経験を生かしながら、新しい知識・スキルを身につけることで、企業の新しい方向性や事業展開に対応できるようにする取り組みを指します。
特に最近では、生成AI・データ分析・DX推進などが業務の中心になりつつあり、「現場の社員が新しい技術に対応できるかどうか」が、企業の競争力を左右すると言われています。
経済産業省の資料(※「IT分野について」経済産業省 商務情報政策局)では、2030年には日本国内で最大79万人のデジタル人材が不足すると予測されており、国全体としてもリスキリングを推進する動きが加速しています。
企業が直面する課題:「人手不足」と「スキルのミスマッチ」
多くの企業が抱える課題のひとつが、慢性的な人手不足です。
ただし、単に「人が足りない」というよりも、「必要なスキルを持つ人が足りない」という構造的な問題に変化しています。
例えば、製造業やサービス業でもデジタル化の波が押し寄せ、ITリテラシーやデータ分析能力を求める場面が増えています。
その一方で、従来の教育体系ではこうした新しいスキルが十分にカバーされていないため、企業が主体的に学びの機会を提供する必要があります。
「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」とは
こうした動きを支援するために設けられたのが、厚生労働省の「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」です。
この制度は令和4年度から令和8年度までの期間限定で実施されており、2025年度(令和7年度)も対象期間内となっています。
対象となるのは、事業展開や業務転換を目的として、従業員に新しいスキルを習得させる企業。
助成金の対象経費には、外部研修の受講料や社内講師による教育費、さらには訓練期間中の賃金の一部も含まれます。
- 対象期間:令和4年度~令和8年度
- 対象企業:事業再構築・業務転換・新分野展開などを行う企業
- 対象内容:職業訓練、外部講座、オンライン研修など
- 助成内容:訓練経費・賃金助成(最大で費用の75%)
たとえば「新しいデジタル部門を立ち上げる」「これまで紙で行っていた業務をシステム化する」といった動きも対象になり得ます。
つまり、単なる研修費用ではなく企業変革の一部としての“人材投資”を後押しする制度です。
リスキリングを成功させるポイント
制度を活用してリスキリングを進める際には、いくつかのポイントがあります。
- 経営戦略と連動させる:「人を育てること」自体が目的ではなく、「どんな事業変化に対応するための学びか」を明確にする。
- スモールスタートを意識する:最初から全社展開を目指すのではなく、モデル部署から始めることで成果を可視化しやすい。
- 学びの継続性を設計する:単発研修で終わらせず、定期的な振り返りやOJTと組み合わせて実践につなげる。
また、厚生労働省の助成金に加えて、経済産業省や自治体でも独自の「リスキリング支援」や「デジタル人材育成補助金」を設けている場合があります。
都道府県や地域産業振興センターの情報もチェックしておくとよいでしょう。
まとめ:人材育成は「コスト」ではなく「未来への投資」
リスキリングの取り組みは、短期的には費用や時間がかかるものの、長期的には企業の生産性向上と持続的成長につながります。
助成制度を上手に活用すれば、経営への負担を抑えつつ、社員のスキルアップを実現することも可能です。
今後は、国による補助制度の拡充や、企業による人材育成支援の取り組みがさらに進む見込みです。
「人を育てる」ことを経営戦略の中心に据え、変化に強い組織づくりを進めていきましょう。

