今までの人事の仕事は「求人広告等での候補者集め」「面談・面接の実施」「結果の確認と通知」「入社後サポート」「研修の企画」といった会社の採用業務全般に加えて、「人事評価制度の確立」「人事評価手段、評価実施の周知」「人事評価結果の通知」など在籍者に対する人事制度に関する仕事であり、これは全て人事担当者が主に紙ベースで情報を纏め、あるいはデータとしてパソコンに保存・管理していくことで行われてきました。
そのため、評価者によって基準にバラツキが生じ採用が効率的に進まず、在籍者に関してもどのように教育していけば良いのか分からないなどの問題が発生していました。基本的な改善策は長年人事を勤めてその企業に熟知しているベテラン人事しか分からず、極めて属人的な人事を行っていくしかないといった形でしたが、近年、ITの目覚ましい進歩によりその在り方が変わってきています。将来、企業の人事はどのように変わっていき、そのために準備すべきことは何なのかをご紹介します。
人材採用は「確率論」。HR×Technologyにより採用精度が劇的に向上
基本的な考え方として採用は「確率論」です。これは所謂営業活動と似たような考え方で自社の商品を売り込む際には如何に多くの取引先に営業を行うのかが重要となります。自社の商品の良さを分かっていただきそこから受注に繋げるために、ニーズが顕在している取引先だけでなく、潜在的にニーズを抱えている方にも知ってもらうことで多くの受注を見込むことができるからです。
採用に関しても自社に申し込んでくれる候補者だけを対象にするのではなく、如何に多くの潜在的な転職候補者に自社の情報や魅力を、自社の求人と求める人材を知ってもらえるかで採用できるかが大きく異なるため如何に多くの人に話を聞いてもらえるのかが重要となるのです。ですので、効果的に採用を行うためには「数」と「質」の両面で最適化を図っていくことで採用数を劇的に向上させる必要がありますが、今まではこの「質」に関しては非常に属人的な判断でしか向上させることが難しく、良い人材を多く取るには取り敢えず数をこなしていくしかなかったのが実情です。
ところが、最近では世界的に「HR×Technology(Human Resource×Technology:HRテック)というワードが盛んに叫ばれており、採用領域における効率化が劇的に改善され始めています。主流となる技術は機械学習という考え方を取り入れたAI(人工知能)。採用企業はこのAIを搭載した人事システムを導入することで、「自社ではどんな人材がどの領域でどの程度の活躍が見込めるか」を数値で可視化し、書類選考段階、面接段階において適切にフィードバックできるようになってきたのです。それにより今までやりたくてもできなかった採用における「質」の改善が進みその精度が劇的に向上させることが実現味を帯びてきたのです。
AIを搭載した採用システムで肝となるデータとその活かし方
ですが当然何もしなくて良いわけではありません。便利なシステムは正しく活用しなければ全く意味をなさないのも事実です。AIの基本的な考え方は多くのデータを取り入れた上での機械学習という考え方。
つまり精度を向上させるには相応のデータ量が必要になり、またどのようなデータを読み込ませるのかで大きくその精度が左右されます。今まで管理していた人材採用に関するデータをどの軸を分析するか設定した上で整理、インプットし読み込ませれば読み込ませるほどアウトプット精度が上がっていくような、そんな設計を行うことができれば精度は劇的に向上するはずです。
現在市場に出回っているシステムではこの軸がある程度デフォルト化され、後はそのシステムにデータを入力し続けるだけで徐々に精度が高まっていくようなツールも発表されるようになってきました。書類選考や面接の段階で応募者が自社にマッチングする精度が何点くらいなのか、数値で可視化までしてくれます。
このように、今までただ見やすいように可視化して管理しておくだけであったデータが採用精度の劇的向上に繋がる、そんな世の中へと変革を始めているのです。
採用と既存社員スキルの可視化を教育改善に活かす
この人事システムは何も採用のみに活かすわけではありません。将来的には在籍社員のスキルを可視化し、どこの領域で教育を促していくことが社員や事業部、会社のために有益なのか把握することもできるようになってくると言われています。現在の教育システムでは教育できない箇所を見直したり、更に教育すべき部分を特定して教育プログラムを追加したりすることで教育制度の抜本的な改革に繋げて社員全体の底上げができれば社員一人あたりの生産性も向上し業績アップにも繋がります。また優秀な社員が増えれば、それにつれて優秀な人材からの応募獲得にも繋がり一層の業績向上を見込むことも可能なのです。
これら技術は現在アメリカを中心に発達してきており、今はまだ精度も乏しく、できることが限られてきていますが、近い将来必ず人事にとって理想的なツールが続々と発表されていくことでしょう。
世の中が急激な変化を見せている昨今、データの活用方法や体制は今から準備しておくべき最優先事項といっても過言ではありません。近い将来必ずやってくるデータ活用の波に呑まれないように、今の「採用」と「教育」について課題を洗い出しどんなソリューションを導入していきたいのか、既存の人事の在り方からの脱却、改善を目指すのです。それができれば人事の在り方や未来だけでなく、会社そのものの未来も大きく変わっていくことでしょう。