東京都では、6月を「就職差別解消促進月間」として、広く企業や都民に対し、東京労働局及びハローワーク等と連携して集中的に各種啓発活動を展開しています。
「就職差別質問」とは、求職者の個人的な属性に基づいて行われる、就職活動における不適切な質問のことを指します。
性別、年齢、出身地、家庭状況、宗教、健康状態、性的指向など、業務に直接関係のない事項に焦点をあて、求職者が不公平に扱われたり、差別されるリスクがないようにすることが目的とされています。
「知らなかった」ではすまされないので、きちんと理解しておきましょう。
日本における就職差別質問の歴史
背景には、社会の変化と法制度の進化が関係しています。
(1950年代~1970年代)戦後の経済成長期
戦後の日本は急速な経済成長の中、多くの労働力が求められました。この時期は、労働力の需要が高まる一方、雇用の場では性別や年齢、家庭状況などに基づく差別が一般的でした。
特に女性は、結婚や出産を理由に職場から離れなければならないことが多く、企業側も採用時に結婚の予定や家庭の計画について尋ねることが一般的でした。
また、年齢的な理由で採用が困難になるケースも多くありました。
(1985年)男女雇用機会均等法の制定
1970年代から1980年代にかけ、女性の社会進出が進み、労働市場における性別差別に対する問題意識が高まりました。これに応じて、1985年に男女雇用機会均等法が制定されました。
法律では、採用や昇進、賃金における性別による差別を禁止し、女性が男性と平等に働ける環境を整えることを目指し、性別差別の禁止範囲の拡大を目指し、差別的な行為を行った企業に対しての罰則が強化されるようになりました。
(2000年代~)年齢差別禁止の強化
少子高齢化が進む中、高齢者の雇用機会を拡大する必要性が認識されました。また、年齢による差別が就職活動や職場で問題となることが増加しました。
「高年齢者雇用安定法」(2007年施行)では、年齢に基づく差別を禁止し、求人や採用における年齢制限を撤廃することを規制しました。また、採用時に年齢を理由にした質問や差別が禁止され、年齢に関係なく能力やスキルに基づいて評価することが推奨されました。
(2010年代~現在)多様性とインクルージョンの重視
グローバル化や社会の多様化に伴い、企業は多様な人材を受け入れることの重要性を認識するようになりました。これにより、性別や年齢、国籍、宗教、性的指向にかかわらず、すべての求職者に平等な機会を提供するための取り組みを強化し、差別のない公正な採用プロセスが求められるようになりました。また、採用プロセスにおける差別的な質問を排除するためのガイドラインを作成し、採用担当者への教育やトレーニングを実施する企業が増え始めました。
(2019年)改正労働施策総合推進法
職場でのハラスメントや差別を防ぐため、労働施策総合推進法が改正されました。企業は、職場でのハラスメント防止の強化に努めるように求められ、採用時の公平性の確保のため、求職者が差別を受けることないよう、差別的な質問や行為が一層厳しく規制されるようになりました。
なぜ就職差別質問が問題視されるのか
公平性の確保
求職者は、個人的な属性ではなく、その能力や適性に基づいて評価されるべきです。性別、年齢、出身地、宗教、家庭状況などに基づく質問は、これらの属性が評価に影響を与えるリスクがあり、これが公平な選考プロセスを妨げる可能性があります。
法的保護
多くの国や地域では、労働法や雇用機会均等法により、差別的な採用慣行は違法とされています。これに違反することは、企業に法的なリスクをもたらし、訴訟や罰金の対象となる可能性があります。
多様性とインクルージョンの推進
差別的な質問を避けることで、企業は多様な背景を持つ求職者にとって働きやすい環境を提供することができます。多様性とインクルージョンを促進することで、企業はより広範な視点を取り入れ、革新と成長を促進することができます。
企業の評判と社会的責任
公正で差別のない採用プロセスを持つ企業は、社会的な信用を得ることができます。不適切な質問や差別的な採用慣行は、企業のブランドイメージに悪影響を及ぼし、求職者や顧客からの信頼を失うリスクがあります。
具体的にどのような質問が禁止されているのか
就職差別質問は、以下のような個人的な属性に基づくものが一般的です。
性別
「結婚の予定はありますか?」
「将来的に子供を持つ予定はありますか?」
年齢
「何歳ですか?」
「定年まで何年働けますか?」
出身地
「出身地はどちらですか?」
「実家はどちらですか?」
家庭状況
「どのような家族構成でしょうか?」
「扶養家族はいますか?」
健康状態
「最近、病気になったことはありますか?」
「障害を持っていますか?」
性的指向
「あなたのパートナーはどのような人ですか?」
「同性のパートナーがいますか?」
採用フローにおいて「厳しすぎる」と感じた場合
採用担当者や企業がこれらの規制を柔軟性や自由度が制限され「厳しすぎる」と感じるかもしれません。そのような場合、適切な代替質問を設けることで解決しましょう。
例えば、家庭構成を尋ねるのではなく、「この職務の要求に対応するために、どのような支援が必要でしょうか?」というような質問にすることにより、個人の問題に焦点があたるものではなく、業務遂行のための必要な質問ということになります。
質問の焦点を求職者のスキルや経験に置き、企業は必要な情報を得ながら差別的な質問を避けることが大切です。
採用担当者が無意識のバイアスのため差別的な質問をしてしまうことがあるかもしれませんが、そのような場合、無意識のバイアスを認識し、それを克服するためのトレーニングを行うことが、起業としては重要な対策となります。
まとめ
企業には、公平で差別のない採用プロセスを実現することが求められています。求職者が公平に評価される環境が整い、多様な人材を採用することができるようになることで、企業は多様な人材を採用することができ、健全で持続可能な成長を遂げることができるでしょう。
この「就職差別解消促進月間」を機に、「就職差別質問」を行っていないか。また、採用担当者のトレーニングの見直しを行ってみてはいかがでしょうか。