なぜ今、ノーレイティングなのか

資料 企業カルチャー

人事業界で現在トレンドキーワードの一つとなっているのが「ノーレイティング」というものです。この単語だけを聞くと、評価を完全にやめてしまう、という理解になるかもしれませんが、そういう意味ではありません。これは、「年次ごとの業績評価をもとに、社員の格付けを行うことを廃止する」という意味です。

この流れは、ギャップやアドビシステム、マイクロソフトといった米国企業を中心に近年広がっています。というのも、現在の人事評価のシステムでは、現場で運用に支障が出ていると感じている企業が増えてきているからです。この行き詰まりの感覚は、米国だけではなく、日本でも共通となっています。例えば、現在のランク付けをする評価制度では、高評価の人は「当たり前」となり、評価が引く人はモチベーションが下がってしまうという状況です。そのような状況のため、必然的に上司は部下のモチベーションを維持するために評価に大きく差をつけない中心化傾向がほとんどという問題が起こっています。

こういったことが起こる背景には色々とありますが、主な理由としては以下3つがあげられます。

1.ビジネスモデルの変化
2.求められる結果の難易度の変化
3.働く人の変化

今回は、この3つの理由をもとに、今なぜノーレイティングというキーワードがトレンドとなっているのかについてご説明いたします。

1.ビジネスモデルの変化

ITの進化によって、ここ数年でのビジネスモデルが大きく変化したことはおそらく多くの人が感じていることでしょう。それに伴い、多くのビジネスの現場でスピード感が重要視されるようになっています。半年前に流行していたものが、半年後にはすでに流行おくれ、などということも当たり前のように起こっており、そのスパンはどんどん短くなっています。

このような環境の中で、年次ごとの目標を決めるというやり方が、成立しなくなっているのです。人事評価についていうと、数か月前に通用していたコンピテンシーが、評価をするころには十分ではなくなっている、ということが起こるようになってきています。そうなると、現場での評価が形骸化する、十分な納得感の得られる結果ではなくなるという問題が生じます。

2.求められる結果の難易度の変化

かつては製品を作れば売れるという時代もありました。しかし現在はグローバル化による海外製品の台頭などに伴い、市場にモノがあふれている時代です。一言でいうと、飽和状態なのです。そのような市場で製品を売っていくためには、かつてと比べると難易度が上がっているといえるでしょう。

求められる結果をだすための難易度が上がると、個人もしくは一つの組織の能力だけでは限界が訪れます。結果、現在よく耳にする「コラボレーション」という方法へと進むのです。個の力でどうにかするのではなく、組織を横断的に協力しあって結果をだしていくというスタイルが増えてきているのが現状です。

組織を超えて結果をだしていくというスタイルが今後増えてくると、今までの個人に主軸を置いた評価のままだと、うまくいかなくなることは想像できます。今までの評価制度は、あくまで個人がどれだけの評価を出したかということによるランク付けのため、誰かと協力し合うというよりも、競争し合うという方向に進みがちだからです。

3.働く人の変化

物心ついたときからインターネットが当たり前に存在し、それを使いこなすデジタルネイティブとも呼ばれる世代が成人しはじめてしばらくたちます。この世代の特徴として、リアルタイムのやり取りになじんでいる点と、多様な価値観を持つ点があげられます。そのため、この世代には一定の期間を置いたタイムラグのある評価や画一された基準による評価について納得感が得づらいという問題が起こります。

リアルタイムの評価や個人の成長を重視するこの世代の特徴を考えても、現行の評価制度が当てはまりづらくなることは理解できます。さらに、中途採用の社員が増える、外国人採用が増える、かつて以上に女性の採用が増えるなど、今まででは想定になかった背景をもつ人材が増えることにより、年次による格付けや画一的な基準では評価が難しいという状況が生まれています。

こういった働く人たちの変化により、現在の評価制度では現場での不満が起こり、社員のモチベーションの低下へとつながる可能性があります。

以上のような理由から、現行の評価制度を見直す動きが広がり、ノーレイティングというキーワードが人事の中でトレンドとなっているのです。もちろん、レイティングすることが「悪」というわけではありません。企業によっては、現在の評価制度でうまくいっているということもあるかもしれません。その場合、ノーレイティングを必ずしも導入すべきとは言えないでしょう。

しかし、もし今現在の人事評価がうまく運用されていない、現場から不満が出ているなどがあり、その要因としてここで揚げた3つの理由が当てはまりそうであれば、一度評価制度を見直すタイミングだといえるかもしれません。