「働き方改革関連法」が施行されてから数年。年5日の有給休暇取得義務化、長時間労働の上限設定など、制度の整備は進んできました。
しかし実務の現場では、「制度はあるけれど、現場で形だけになっている」という声も依然として挙がります。
今、国や自治体では「働き方改革の次のフェーズ」として、制度の運用・実効性強化、時間管理の透明化を重点課題にしています。
1. 有給休暇取得義務の実態と課題
例えば、厚生労働省の「令和6年就労条件総合調査」によれば、労働者1人あたりの年次有給休暇取得率は65.3 %と、過去最高を記録しました。
ただし、取得率が約65%にとどまっており、政府の目標である「70%」にはまだ届いていません。
取得日数・取得率の上昇にもかかわらず、現場では次のような課題が多く挙げられています
- 「忙しい時期だから休めない」など、業務量と休暇取得が相反している
- 上司や職場の雰囲気から、休暇申請に気を遣ってしまう
- 休暇を取得しても代替要員がいないため、本人も周囲も負担を感じてしまう
有給取得義務は「取得できる仕組み作り」だけでなく、「取得しやすい文化と環境」の構築がカギです。
2. 時間管理の“次の課題”:長時間労働と見える化
時間外労働の上限規制については、過去に大企業/中小企業で段階的に適用されてきましたが、運用の厳格化・対象範囲の拡大が今後も進んでいます。例えば、建設業・ドライバー・医師などでは年960時間・月100時間未満・2〜6月平均80時間以内など高い制約が設定されています。
さらに、制度の適用だけではなく、「勤務間インターバル制度」の周知・導入も政府目標として掲げられています。令和7年(2025年)までに、導入企業割合15%以上という数値目標が設定されています。
このように、時間管理において注目されるのは以下の視点です:
- 勤怠記録があるだけでは不十分。実働時間・休息時間・深夜/休日労働の実態を可視化する必要
- 業務の偏り・負荷集中の有無を把握し、マネジメントが主体的に改善できる仕組みづくり
- テレワーク・フレックスタイムなど、働き方の多様化を時間管理の観点から再設計する
中小企業が取るべき「次の一手」
制度を整えるだけで安心、という時代は終わりつつあります。中小企業こそ、これらの“次フェーズ”を捉え、働き方の改善を自社の強みに変えることが求められています。
主な戦略例
有給取得率をKPI化し、チーム単位で目標設定。
例:「1人あたり平均取得日数12日以上」などを掲げ、月次で進捗フォローを。
勤怠・評価制度の連動化。
有給取得や時間外・深夜労働の抑制が「働き方改善」の尺度となることを明示し、評価・昇給・キャリアに反映。
働き方の可視化と業務構造の見直し。
業務時間を分析し、長時間労働が常態化している部署には代替手段や業務再設計を実施。
管理職研修と現場風土改革。
「休暇を推奨する風土」「働き方を自分で調整できる環境」を育てるため、現場リーダーの意識改革を。
実務導入モデル
- 有給取得促進月を定め、全社員に「取得月」選択をさせる制度を導入。
- 勤務間インターバルを試験的に実施し、「前日終業から次日始業まで最低11時間以上確保」など目標を設定。
- テレワーク・時短勤務を実働データでモニタリングし、「コア業務時間」を再検討する。
4. まとめ:制度対応を“守り”から“攻め”へ
働き方改革の次のフェーズでは、ただ制度を満たすだけでなく、制度を自社の“働き方の魅力”として活かすことがポイントです。休暇取得・時間管理の改善=コスト削減ではなく、社員の安心・定着・創造性アップにつながる投資として捉えてみてください。
今、自社でできる第一歩として、「有給取得率」「時間外時間」「勤務間インターバルの導入状況」などの現状把握から始めましょう。データに基づく働き方の見直しが、次の人材獲得・定着の鍵となります。
(参考)厚生労働省「令和6年就労条件総合調査 結果の概況」https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/24/dl/gaikyou.pdf
(参考)厚生労働省勤務間インターバル制度をご活用ください
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/interval01.html

