企業における人的資本を強化するには

HRテック

「人的資本」の開示義務化に向けて政府の動きが活発になっています。

有価証券報告書(有報)を発行する大手企業4000社を対象とし、2023年3月期決算以降の有報に人材投資額や社員満足度といった情報の記載が求められることになりました。対象である企業は早急な対応を迫られていますが、対象ではない企業は何もしなくてよいかというと、そうではありません。

世界的にも、人的資本の開示は企業活動において「人的資本に対する投資が健全に行われているか」を社内外に示す新たな基準となり始めています。
多くの情報から比較検討することが容易な現代では、今後、選ばれる企業・継続的に成長する企業となるために「人的資本」への取り組みは必要不可欠と言えるでしょう。

企業における人的資本を強化するには

人的資本に取り組む際、参考とするべきものに、「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書(人材版伊藤レポート)」があります。

出典:人材版伊藤レポート(経済産業省)

2020年9月に経済産業省から発行され、持続的な企業価値の向上に向けて、経営戦略と連動した人材戦略をどう実践するかということがまとめられています。

レポートでは人材戦略に取り掛かる前や、再考する際の重要なポイントとなる「3つの視点(Perspectives)」と「5つの共通要素(Common Factors)」を紹介しています。

今回は、「3つの視点(Perspectives)」についてご紹介します。

「5つの共通要素(Common Factors)」はこちら→

人材戦略に求められる3つの視点

人的資本を強化するために重要なのは、どのような人材戦略を行っていくのかがポイントになります。

人材版伊藤レポートでは、それぞれの企業において、経営戦略やビジネスモデルが異なるように、人材戦略もそれぞれの個社性を認めています。一方、各社へ共通する部分も多いとしています。

レポートでは、重要な3つの視点として
経営戦略と人材戦略の連動
As is – To be ギャップの定量把握
企業文化への定着
を挙げています。

それぞれを簡単に説明しましょう。

経営戦略と人材戦略の連動

急速に変化する経済環境の中で、持続的に企業価値を向上させるためには、経営戦略・ビジネスモデルと表裏一体で、その実現を支える人材戦略が不可欠です。

3年~5年で具体的な数値目標を立てる中期経営計画を行っている企業では、その計画に合わせて人材戦略も見直す必要があります。
急速に変化するビジネス社会では、企業もそれに合わせて注力するが変化するはずです。そして、それが変化したら必要な人材も変化していくでしょう。経営戦略が変化すれば、それに沿った自社に適した人材戦略を立てなければなりません。

これは、経営戦略に連動していくので、企業ごとに異なりますが、経営戦略の実現に必要な人材ポートフォリオの充足や多様な個人・組織の活性化等のように、各社に共通する要素や視点も存在します。
企業は共通要素を踏まえつつ、自社の経営戦略上重要な人材の確保や人材育成など、具体的な人材戦略を考えることが有効であるとしています。

As is – To beギャップの定量把握

「As is(現在の姿)」と「To be(目指すべき姿)」とのギャップを具体的に数字で把握し、人材戦略が、ビジネスモデルや経営戦略と連動しているかを判断することが必要になっていきます.

必要な人材確保のため、退職者数や離職率の定量把握も必要です。
数字を基にPDCAサイクルをまわし、人材戦略の見直しや採用計画へとつなげていくとよいでしょう。

ギャップの把握はステークホルダーに対して、人的資本・人材戦略を定量的に把握・評価して開示する場面でも必須です。投資家に対しては、定性的な評価や従業員数などの一部の数値のみを開示するのではなく、リスキルや人材投資などのリターンや投資対効果を定量的に記載した内容が求められるからです。

企業文化への定着

企業文化は、日々の活動・取組を通じて醸成され、企業理念や企業の存在意義、持続的な企業価値の向上につながっていきます。

ミッションやビジョン、クレドなど企業が自社の経営における方針や主張を明文化し、社内外に示している企業も多くあります。その企業の社員はそれに基づいて仕事に取り組まなければなりません。

企業文化は人材戦略の最終的な結果であるとも言えるので、目指す企業文化を見据えた人材戦略でなければなりません。

企業文化の定着化に向け、経営トップは粘り強く発信し、企業文化に関しても、適切な KPI を設定し検証することが大切です。