前回、前々回は、エンジニアの評価について、他の人事評価とどのように異なるのかをお伝えしました。
システム会社のエンジニア評価ってどうやって作るの?エンジニアの人事評価ができあがるまでの実例①
当社が人事評価を作り、コンサルタントを入れるまで
システム会社のエンジニア評価ってどうやって作るの?エンジニアの人事評価ができあがるまでの実例②
エンジニアの人事評価と他の業種の人事評価の違い
今回は、人事評価を導入するときに迷った点や、導入後改善していったところをお知らせします。
人事評価の導入で注意した点、判断に迷ったこと、導入後改善したこと
理解をしてもらいながら進める人事コンサルと打ち合わせの中で何点か判断にまよったこと、改善したことを挙げて書きます。
①評価点の中間値について
1~4の評価点と、1~5の評価点の考えについて、中間値をもつかどうか迷いました。
1~4の評価思想は当然のことながら、割り切れるため優劣がはっきりつきやすくなります。
それに対し、1~5の評価点の場合、中間数値があるため評価があいまいになるケースがあります。熟考した末、当社の評価は1~5の評価点を用いることにしました。
理由は何点かありますが、
・PJの拡大や受注単価の増額等、社員として実施すべきだが、実施できないケースがあること
・スキルリセットのため一定期間、技術習熟が必要になり、生産性が下がる状況が発生すること
・客先の要件定義の進捗観点から、開発進捗が上げにくくなるケースがあること
・同じPJでも「客先の評価者」が変わることにより、甘辛で変動がでること
などが大きな理由です。
客先常駐の場合、当社では客先から評価情報をいただき、評価実績に反映しています。しかし、すべてではないにせよ「不透明な部分と不可抗力」な事象が発生することもあり、あいまいにすべき事項をなくすことができません。
1~5の評価点を用いて中央値があるかわりに、評価項目数を多くすることで、評価結果に個人単位で大きなばらつきが出ないように配慮しました。
②MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)ついて
こちらは、後に加えたという経緯があります。
当初、スキル・コンピテンシー評価事項の一辺倒でしたが、MVV指標やクレドなどの行動指針もコンピテンシーとして評価項目に加えていきました。
繰り返しですが、評価と育成を目的としているので、理念視点での評価項目も必要だと判断したためです。
③スキル評価について
スキルの評価については等級号数の判断時に利用し、基本的にはコンピテンシーや行動モデルを評価項目に盛り込むことにしました。
悩ましかったのが、MBO(目標管理制度)を用い数値的に評価するかどうかでした。
結果、MBOは一部の役職者などバジェットを追求するものを対象とした評価に用いることにし、一般社員には、スキル・コンピテンシーの評価、等級・号数での評価、役職での評価を用いることで対応するようにしています。
④項目数をそろえる
あたりまえかもしれませんが、役職や職種等級が違っても、評価項目数はあわせたほうがいいかもしれません。
理由としては、評価点の基準が統一されることになり、判断がしやすくなります。
⑤受注単価ではなく、経済性を反映させる
当社が対応している部分でもあり、SESといわれる業態では受注単価が上下することがあります。
企業としては利益でみるべき視点は当然ありますが、客先・PJが変動したときに同一人物・同スキルであっても単価が上下することがままあります。
フリーランスや一般派遣社員などのように単価だけで評価する企業もありますが、人事評価の目的は報酬と育成です。当社は単価が高い低いということだけではなく、利益をある程度無視した評価をすることもままあります(当然、完全ではありませんが)。
評価をするということは「気づき」を促すことであり、それが育成につなげていくという考えのためです。
⑥評価項目をミッションに合わせる
評価項目は、可能な限りミッションに合わせるように作成しました。
エンジニアと一口に言っても、SES・常駐で業務しているエンジニアと受託開発で業務しているエンジニアでは、企業経済性の構築に大きな違いがあります。
SES常駐の企業経済性
・ランニング型の売上になる傾向が強い(契約継続している間企業間で取り決められた契約金額が売上げとなる)。
・エンジニアサイドはPJ内でのパフォーマンスと客先での案件獲得で受注金額が多くなる(客先での増員活動)。
受託型の開発の企業経済性
・イニシャル型売上げの場合となる傾向が強い。
・契約のクロージングはPM・SEが行うケースが大半のため、エンジニアサイドに顧客志向や新規受注を強く意識してもらう必要がある(新規案件の受注活動)。
エンジニアも経済性の観点が必要でその重要性に変化に合わせて、スキル・コンピテンシー項目を変化させるようにしました。
⑦評価項目を事前に開示する
日常の生産活動で評価されることだけを考えて活動する方は少ないですが、意識してもらうことはとても重要だと考えています。
一定の能動性や積極性がある社員の場合、開示に伴う人事評価思想の説明を自分なりに理解し、行動に反映させたいと考えます。どのように動いたらいいのか、作業実績や個々人の生産性以外に何が必要なのか、などを意識できるようになります。
総論
当社の代表は、人事評価を実施したのち社内の変化を感じ取ったそうです。
始めはそれほどではなくても、2回、3回と実施していくと確実な変化が表れてきたようです。
人事評価を実施した後の変化
良かったこと
・自己投資性を高める社員が増えた
・自己の業務以外に営業間連携を取ってくれるようになった
・収支に対する意識を持ってくれる社員が増えた
・増員情報に対し、営業間との連携が増えた
・標準的な社員とそうではない社員との差が明確になってきた
・幹部や役職者との間で人的レベルに対する共通認識が明確化された
・新卒採用がしやすくなった
などなどです。
いいことづくめで記載するのはよくないのでデメリットも記載したいと思います。
デメリット
・導入に手間がかかる
・評価実施に対する工数がかかる(事務処理、1on1のフィードバック等)
・評価内容を事業変化などに合わせて変更しなければならない
所感としての一番の課題は、導入に手間がかかる点です。
何点かありますが、特に手間なのは
①評価者をレクチャーする、評価者研修などの機会を設ける必要がある
②制度設計に慣れていないとその導入に対する組織浸透が必要になる
という点ではないでしょうか。
しかし、当社での例もある通り、人事評価による組織内の変化はメリットが多いのではないでしょうか。
当社での紆余曲折も含め、これから人事評価を導入しようとしている企業に参考にしていただければ幸いです。