ヤフーの1on1ミーティングは、それを紹介した本が日本の人事部「HRアワード2017」書籍部門で優秀賞を受賞するほど非常に注目を集めています。週1回30分のミーティング、特に「部下のための時間」という視点は、今最先端テック企業などで注目されているモチベーション管理と相まって、大きな話題になっているのです。
こうした企業の取り組みは、現在の転職有利な環境と今まで以上に大きくなってきている教育コスト、そして何よりも人がいれば成果の上がった労働集約的な仕事よりも、構成メンバーのコミットメントこそが成果のカギとなる知能集約型の仕事が増えてきたことが原因ではないでしょうか。
今回は注目されている1on1ミーティングと離職率の関係を見ながら、その特徴や良い面を確認していきましょう。
日本の離職率を見てみる
まずは日本の離職率を見てみましょう。よく挙げられる離職率というのは、大卒からの新卒採用で獲得した人材が3年以内に辞める確率というものです。ここでは、厚生労働省がデータを持っているので活用します。
出典:新規学卒就職者の学歴別就職後3年以内離職率の推移 厚生労働省
新規学卒就職者の学歴別就職後3年以内離職率の推移(令和2年)
この数値を見ればわかるように、低い時には25%、高い時には35%といった具合になっています。一般的に新卒採用組は、3~4人に1人の割合で3年以内に退職してしまうというグラフです。しかし、そうはいっても「なるほど、それは仕方ないな」と考えらえる経営者やマネージャーは少ないのではないでしょうか。実際3年目となれば、ある程度の戦力として期待できるスキルを身に着けている人も出てきています。
そのような将来有望な人材を3年以内に失ってしまうというのは、経営の根幹を揺るがしかねない問題といえるでしょう。加えて、採用と教育にはかなりのコストがかかっています。最近では、部下を簡単に離職させる上司というものは、少し前ならば仕事に厳格で責任感の高いなどと評価されたかもしれませんが、コスト視点が強くなってきている今では、採用と教育というコストを回収できない上司というマイナスの評価が与えられることも少なくありません。
離職率低下を目的とした1on1ミーティングは無意味
1on1ミーティングは、本来、離職率の低下を目的とした施策ではありません。部下のモチベーションを高め、仕事に対するコミットメントを強くしてもらうのが狙いです。その副次的な要素として、自分の能力を認めてくれるチームやグループには人は長く所属しておきたいものです。そのため離職率が低下していくのです。1on1ミーティングでは、部下とマネージャーの信頼関係が極めて重要です。時と場合によっては、部下にとって耳の痛いことを言わなければならないかもしれません。そうした耳の痛いことを受け止めてもらうために、信頼関係を創っていかなければならないのです。
もし仮に、離職率の低下を目的として1on1ミーティングを導入するとどうなるでしょうか。部下に辞めてもらいたくないという気持ちが出てきてしまうと、部下に下手に出てしまうこともあるでしょう。これは完全に逆効果です。1on1ミーティングはそのような目的で採用されるものではないのです。
部下とマネージャーの信頼関係を創るための仕組み
1on1ミーティングは毎週1回~月2回程度、部下とマネージャーの間で30分ほど行われる話し合いのようなものです。ここで重要なのは、部下がどういう思いで仕事に向かっているかを部下の口から確認していくことでしょう。部下が主人公であり、マネージャーは部下のサポート役というイメージです。マネージャーに相手の話を真摯に聞くという姿勢が何よりも大切になってきます。こうした部下の考えや思いをベースとしたコミュニケーションが、部下とマネージャーの信頼関係を生み出し、仕事に対するコミットメントを引き出すことができるというのが1on1ミーティングです。
この過程で部下は仕事やマネージャーを通じて、会社とのやり取りが可能になり、安心して仕事に励むことができるのです。
仕事へのコミットメントは、責任感と認められている感を生み出す
少し前はスパルタ教育という言葉が流行っていたほど、他人には厳しく当たるのが教育の一つの形であるというイメージがありました。しかし、そのことは、指示待ち人間を作るだけであり、企業の生産性には貢献しないというのが最近の研究で明らかになってきています。厳しさではなく信頼されることによって、多くの人はやる気を出し、そして安心して仕事に取り組むことができます。こうしたチームを作ることによって、仕事に対する責任感が芽生え、自発的に仕事に向かっていくことができるのです。
この自発の力によって、離職率の低下という副次的な効果が見込めるというのが1on1ミーティングといえるでしょう。離職率という数値にとらわれることなく、優れたチームを作るため、そしてチームの成果を高めるため、1on1ミーティングをうまく活用してみてください。