人事評価制度の導入率は、従業員数が101人以上の企業では87.2%が人事評価制度を導入しているのに対し、5〜20人の企業では35.0%程度だと言われています。
従業員数の少ない企業で、人事評価制度が導入されないのは下記のような理由があります。
・人事専門部署や専門の人事担当者が不在のため、制度の設計や運用にかかるリソース不足
・個別に評価やフィードバックを行うことができることからの、制度の必要性の認識不足
・少人数からの家族的な雰囲気やフラットな上下関係、柔軟な組織文化といった組織文化の影響
・評価制度の設計、導入、運用や外部コンサルタントにかかるコストの問題
・人事評価制度を効果的に導入・運用するための専門知識の欠如
従業員数が少ないからという理由だけではなく、業種や職種の特性によっても人事評価制度の導入が少なくなる傾向があるようです。
人事評価制度の導入が遅れている業種
製造業
特に小規模な製造業では、職人技術や経験が重要視されることが多く、定量的な人事評価は導入されにくいです。製品の品質が個々の職人の技術に依存するため、評価が難しい傾向にあります。
小売業
特に個人経営や家族経営の小売店などは、従業員が少なく、各々の業務が明確で、フォーマルな評価制度が必要とされず、日常のフィードバックで十分とされることが多くあります。
飲食業
家族経営や個人経営のレストランやカフェなどでは、従業員が少数なため、経営者が直接評価や指導を行うことが多いため、人事評価制度化の必要性が低くなります。
農業・林業
労働力が季節労働者やパートタイムの従業員に依存している場合が多く、定期的な人事評価制度を導入することが困難になります。また、従業員の業務内容が多岐にわたり、評価基準の設定が難しいこともあります。
福祉・介護業
従業員が個々のケアの質を評価するのが難しいため、人事評価制度の導入が進まない場合ことがあります。さらに、業界全体での人材不足も影響し、評価制度よりも即戦力確保が優先されることがあります。
業種に共通する特徴として、従業員数が少なく、家族的な経営スタイルが一般的であること、また業務内容が評価しにくい点が挙げられます。これらの要因が、評価制度の導入を遅らせる原因となっています。
人事評価制度の導入が遅れている職種
クリエイティブ業界(デザイン、広告、アートなど)
クリエイティブな仕事は成果の「質」が重視されますが、評価基準が主観的になりやすいです。また、クリエイティブの完成度はチームとの連携や個人のアイデアによる部分が大きいため、定量的な評価が難しいです。
研究職(研究者、R&Dエンジニア)
研究開発職は、成果がすぐに出ないことが多く、長期間にわたる試行錯誤が必要です。研究の進捗や質を定量的に測るのが難しく、短期的な評価が不適切な結果を生む可能性があります。また、画期的な発見が評価されるまでに時間がかかる場合が多いです。
コンサルタント
コンサルタントは、クライアントとの関係やプロジェクトの複雑さが多岐にわたるため、個々のプロジェクトの成果を定量的に評価することが難しい職種です。クライアントの満足度や長期的な成果は、評価の指標として曖昧な場合が多いということもあげられます。
介護・福祉職
介護や福祉の現場では、人と人との関係が深く影響する職種のため、ケアの質や利用者の満足度を評価するのが困難です。業務の数値的な評価は現場の実態を十分に反映しないこともあり、ケアの「心のこもり具合」や「思いやり」を数値で測ることは難しいです。
営業職
売上や契約数などの数字が直接的な評価基準として使われることもありますが、営業活動には顧客対応や信頼関係の構築、チームとの協力など、数字に表れにくいといった側面もあります。これを十分に評価するための基準を作ることが難しいと考えられています。
教育職(教師、インストラクター)
教えた内容が学生や受講者にどれだけ理解されたか、また彼らの成績や成果がどの程度向上したかが重要ですが、教える相手の学びのスタイルや背景は多様であり、教師の貢献度を直接評価するのが難しいです。
アート・芸術職
芸術家やアート分野に関わる職業は、創造的な自由や表現が重視されるため、定量的な評価がほぼ不可能です。作品の質や価値は主観的な評価に左右されるため、個別の基準を定めるのが難しいです。
上記のような職種は、成果を数値化したり、定量的に評価したりするのが難しく人事評価制度の導入が難しいとされています。
IT企業で人事評価が遅れている理由
以外に思うかもしれませんが、IT企業も人事評価制度の導入も遅れ気味だと言われています。
急成長と組織の未整備
多くのIT企業はスタートアップとして急成長することが多く、組織の整備や人事制度の構築が後回しにされがちです。成長スピードに追いつくため、採用やプロジェクトの推進に集中し、評価制度の導入が遅れることがあります。
成果の測定が困難
エンジニアやデザイナー、プロジェクトマネージャーなど、多様な職種が協力してプロジェクトを進めるため、個々の貢献度を定量的に評価するのが難しい場合があります。問題解決能力を評価する指標の設定が困難です。
フラットな組織文化
IT企業はフラットな組織構造な場合が多く、上司と部下の関係が近いため、フォーマルな評価制度を必要としないと考えられることがあります。自由で柔軟な働き方を重視する文化が、評価制度の導入を妨げる場合もあります。
評価基準の多様性
IT企業では、技術スキル、チームワーク、イノベーション能力など、多岐にわたる要素を評価する必要がありますが、これらを一律の基準で評価することが難しいと考えられ、その結果、評価基準を設定するのに時間がかかり、制度の導入が遅れるという
ことがあります。
リモートワークの普及
IT業界ではリモートワークが普及しており、従業員の働き方が多様化しています。従来の対面での評価が難しく、新しい評価方法を模索している段階で制度の導入が遅れることがあります。
IT企業では、急速な成長や組織文化の影響、また、成果の測定や評価基準の設定が難しいことやリモートワークなどの新しい働き方への対応など、制度の整備に時間がかかることから、人事評価制度の導入が後回しにされることが多いです。
中小企業で人事評価制度を導入したいけれど難しいと感じたら
前述したように、人事評価制度の導入が難しい理由はさまざまですが、難しい職種や業種の中でも人事評価制度の導入に成功した企業もあります。
(続き→次回は困難なケースの対策方法を記載します。)