「男性育休の制度は整えています」 そう答えられる企業は、すでに少なくありません。
しかし、2025年4月から始まった制度変更によって、 問われるポイントは大きく変わりました。
これから企業に求められるのは、
「制度があるかどうか」ではなく、「実際に取得されているかどうか」です。
男性の育児休業取得率が数値として公表されることで、 企業の人事運用やマネジメントの成熟度が、外部からも見える時代に入りました。
本記事では、2025年4月の制度変更を正確に整理したうえで、 企業が今から準備すべきポイントを、人事運用・評価の観点から解説します。
1. 2025年4月、何が変わったのか(制度整理)
2025年4月、改正育児・介護休業法の施行により、 男性の育児休業等の取得率を公表する義務の対象企業が拡大しました。
これまでは「常時雇用する労働者が1,000人を超える企業」のみが対象でしたが、 改正後は常時雇用する労働者が300人を超える企業も公表義務の対象となっています。
公表すべき内容は、以下のいずれかです。
- 男性労働者の育児休業等の取得率
- 育児休業等と育児目的休暇を含めた取得割合
公表方法は、自社ホームページや、 厚生労働省が運営する「両立支援のひろば」など、 一般に閲覧可能な形で年1回行う必要があります。
公表時期は、対象事業年度終了後、おおむね3か月以内とされています。
重要なのは、この制度が 「制度の有無」ではなく「実際の取得状況」を示すことを目的としている点です。
なお、取得率の高低による直接的な罰則は設けられていません。 しかし、数値が公表されることで、 採用活動・企業イメージ・従業員からの信頼に影響を与える可能性は高まります。
2. なぜ男性育休は「制度があっても取られない」のか
多くの企業で男性育休が進まない背景には、 制度設計そのものではなく、運用上の課題があります。
① 上司・評価への不安
「育休を取ると評価が下がるのではないか」 「昇進やキャリアに影響するのではないか」 こうした不安は、取得をためらわせる最大の要因です。
② 業務の属人化
特定の社員しか担えない業務が多いほど、 「自分が抜けると現場が回らない」という心理的ハードルが高まります。
③ 管理職側の経験・理解不足
男性育休をマネジメントした経験がない管理職ほど、 対応に戸惑い、結果として取得が後回しになるケースも少なくありません。
3. 取得率公表で顕在化する「企業ごとの差」
取得率が公表されることで、企業間の差はこれまで以上に明確になります。
- 男性育休が自然に取得されている企業
- 制度はあるが、実際にはほとんど取得されていない企業
- 部署や上司によって取得可否が左右される企業
この差は、制度設計の巧拙というより、 人事運用の一貫性によって生まれます。
特に若手層や子育て世代は、 「男性育休の取得率=その会社での将来の働きやすさ」 として受け取る傾向が強まっています。
4. 企業が今から準備すべき3つの視点
① 育休と人事評価を切り離す
育休取得が評価や処遇に影響しないことを、 制度・運用の両面で明確にする必要があります。
② 業務の見える化と引き継ぎ設計
属人化した業務を棚卸しし、「誰が抜けても最低限回る状態」を作ることが不可欠です。
③ 管理職への運用支援
制度説明だけでなく、 育休前後の面談方法、評価の考え方、チーム運営の工夫など、 実務レベルでの支援が求められます。
5. 男性育休は「人事制度の成熟度」を映す鏡
男性育休の取得率は、 評価制度・業務設計・マネジメントの総合点とも言えます。
制度が整っていても、 運用が追いついていなければ、取得は進みません。
2025年4月の制度変更は、 企業にとって単なる「法対応」ではなく、 人事制度と運用を見直す絶好のタイミングでもあります。
まとめ
男性育休の取得率公表は、 企業の「本当の働きやすさ」が外から見える時代の始まりです。
・制度があるか
・ルールを定めているか
ではなく、 実際に運用できているかが問われます。
評価制度、業務設計、マネジメント。 これらを切り離すのではなく、 一貫した仕組みとして整えることが、 これからの企業競争力につながっていくでしょう。

